~~この章では日本人と中国人に加えて韓国人についても比較することにしよう~~
中国で4番目の大学『上海理工大学』に1年間在籍していたとき、はじめて『異文化コミュニケーション』という授業を担当した。
そのとき使ったテキストは、『アジア人との正しい付き合い方――異文化へのまなざし』(著者 小竹裕一 立命館アジア太平洋大学<出版時准教授>NHK出版、生活人新書 2008年)であった。
小竹は、文化を『高等文化』と『一般文化』の二つにわけているが、この本で扱う民族や国家間の生活習慣の違いによるカルチャーショックや誤解、不和は、『一般文化』の違いによるものと定義している。
彼は、日本語を教えているシンガポールの中学生を引率して、日本でホームステイをさせた経験があるという。その中学生の戸惑いを次のようにユーモラスに記述している。
――シンガポールの中学生たちが言葉少なに「なんとかならないか 」と不満をもらしたのは何かといえば、日本人ホスト家族の食べるスピードのことだった。つまり、彼らが夕食の料理を半分も食べないうちに、日本人の家族は食べ終えてしまう。そして、まだ口をもぐもぐ動かしているシンガポール人の中学生を、皆がじっと見つめるので、バツが悪くて食べ物がノドを通らなくなってしまう、という訴えであった。
小竹は少年時代に父から『早メシ、早グソ』を躾けられた経験を思いだしながら、日本には『早メシ文化』が確かにあると述べている。この点は私も同感できることである。さらに、小竹は次のように述べている。
――このような、無意識のうちに身につけ、無意識にやっていることのほとんどが、自分の背後の文化によって支配・コントロールされている。それに対して、自分と異なった価値観や行動様式などを読み解き、理解するという一見困難とも思える外国人とのコミュニケーションをやっていく中で、自分自身の文化が見えてくる。だから、異文化コミュニケーションとは『自分探しの旅』でもある。
小竹は、日本人と韓国人の文化背景が際だって異なっていることに注目して、両国の若者の『友達』に関する考え方の違いを探るためにアンケート形式で調査し、その結果をこの本で解説している。
私は、上海理工大学日本語科で中国人学生に『異文化コミュニケーション』をこの本をテキストとして授業することんいなった。その際に、中国人のデータも加えて、日韓中の三国の比較をすれば学生の関心もいっそう高まるだろうと考えた。そこで、授業の直前に、この大学の2、3年生を対象にしてアンケートを実施した。男女比率のアンバランスなど小竹ほど綿密な調査とはなっていないが、比較のための参考資料にはなるだろう、と考えた。
小竹が紹介している約十項目の質問のひとつ『友だちと食事するとき、支払いはどうしますか?』について、私が調査した中国人の結果を加えて下図に示する。『おごる』と『時々おごる』を併せると、中韓共に約70%なのに対して、日本人は割り勘が約70%と際だって異なる。
――韓国人にしてみれば、友人同士なのに食事のたびに細かく計算して割り勘にする日本人に違和感や息苦しさを覚えるのだろう。
小竹はそう推察している。この点では中国人も同じ思いのようだ。
下の表には8項目について日・韓・中の調査結果を大雑把に区分けし、3国の異同の程度をまとめた。『友達の誕生日にお祝いをする』(第8項目)の点では日韓中で同じで、友への気遣いを忘れないのに、他の七項目では日韓は際だって異なっている。中国はやや韓国よりの中間的な位置にあることが分かった。小竹は日韓について以下のように考察する。
――友達関係を大切にする気持では日韓で(私の調査した中国も加えて)差がないのに、その表現のしかたに大きな違いがある。すなわち、日本人が「いくら友達でも、あまりに馴れなれしくすると、礼儀しらず」になって良くないと考えるのに対して、韓国人は「お互いに友人なのだから、無礼講が当たり前」と考える。
1 友達と話すとき、どの位の間隔をあけて話すか(40、50、60センチ) 2 同性の友達といっしょに歩くとき、手をつなぐか 3 同性の友達が部屋にきて泊まるとき、一緒にベッドで寝るか 4 友達と食事をするとき、支払いはどうするか 5 友達の大学の成績について、どのくらい知っているか 6 友達の部屋に行ったとき、友達にことわらずに冷蔵庫をあけることがあるか 7 同性の友達の部屋に泊まったとき、友達の歯ブラシを借りて使ったことがあるか●● 8 友達の誕生日に何かしてあげるか |
【1から8の調査項目は小竹の著書にもとづく。調査対象は以下である】
日本人・韓国人 男女各25名(立命館アジア太平洋大学 2004年 小竹裕一)
中国人 男21名 女38名(上海理工大学2,3年生 20011年 森野昭)
以上、私は、将来日系企業に就職したり、仕事で日本人と付き合うことになる日本語科の中国人学生に、『異文化コミュニケーション』を講義した。彼らが日本人をはじめ外国人と付き合うときに、相互に異なる文化的背景をよく理解しておくことが、友好な関係を維持するために必要である。それゆえ、大学の日本語科における『異文化コミュニケーション』の授業はとても大切である、と考えている。
本章は『異文化へのまなざし』(第2,3章;小竹裕一著)から、著者の許可を得て多くを引用させていただいた。
なお、『中国人のマナー』については別項にて紹介した。