留学生活は順調であったが、私には一つの不満と一つの希望があった。前者はもう『日本語教師』ができないこと、後者は中国語の会話訓練をする相手が欲しいということだった。そんなある日、交通大学の日本語の授業を聴講させてもらった。学生を前に颯爽と授業をすすめる日本人教師の姿を眺めていると、羨ましさと同時に我が身の寂しさを感じた。
思い切って教師に頼んだ。伊東先生の好意で、私は日本語の授業中に教壇に立って学生に呼びかける機会を得た。
「皆さん、私から日本語を学びたい人はいませんか。そして、私は皆さんから中国語会話を教えてもらいたい!」
授業の後に、4人もの女学生が名乗り出た。この大学でも日本語の勉強に熱心なのは女学生ということか。だが、4人は多すぎる。私はいった。
「できたら、北京普通話が得意な、お二人にお願いしたいのですが・・・」
そうしたら、伊東先生が笑いながらいった。
「森野さん、あなたは普通話がどうだこうだというレベルじゃないんでしょう。せっかく4人が希望しているのです。全員面倒をみてやってください」
こうして、二人ずつ毎週各一回日本語と中国語の勉強会がはじまった。二人は脱落したが、熱意のある二人と勉強会が続いている(写真下左)。
そして秋からは日本語勉強サークルに参加して、中国の若者に日本語を教えるチャンスも巡ってきた。こうして私はボランティアながら週二回日本語教師をしている(写真下右)。
課外活動では学院の囲碁クラブに参加している。囲碁をするのは会社時代以来、30数年ぶりのことだ。
囲碁クラブは毎週水曜日の常会だけでなく、月に一回『碁悦同舟会』と呼ばれる対抗戦が開催される。対抗戦には多くの中国人も参加する。会場は大連市内の『茶館』で開催され、対局前には中国式茶道のお手前にあずかる。また、中韓日の囲碁交流戦にも参加した。