10 解雇通告

江西師範大学で在職3年目の春頃、外人教師の慰労会があった。その会場で日本語科教務主任が立ち話で私にこういった。

「外事処が来年度、先生を継続採用しないことに決めました」

 まるで他人事のような言い方であった。

 ――森野先生は学生のためによく働いてくれました。これからも我が校にいて欲しいと思っていますが、上が決めたことには逆らえません。残念ですが、ご了承ください。

 と、たとえ、リップサービスであろうとも、解雇を予告するときには、このくらいの気遣いはして欲しかった。だが、そう期待するのは日本人の感覚であって、中国人はそんなことは言わないものである。

6年間もこの大学一筋で勤めていた同年配の女性教師も解雇された。それは、新年度から北京政府の60歳以上の外人教師を締め出す方針が徹底されたからであり、江西省政府がそれに従ったまでのことだろう。当然、外人教師の採用の許認可を受ける立場にある大学の外事処も右に倣えとなる。

外人教師への解雇通知とはいつもこんなものである。その瞬間から、日本人教師は路上に放り出されるのだ。

中国にも定年制がある以上、外人教師に対しても年齢制限を設けるのはヤムを得ないことかも知れない。しかし日本には、60歳定年を迎えて、未だ元気で労働意欲が旺盛な老人がたくさんいる。その中には、日本語を中国の若者に教えたいと思う人もいる。外国語教育という特殊技能を持つ老人を受け入れることは中国にも利点があるはずである。北京政府の教育部の方々は、このような老人パワーを評価して活用していただきたい。

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